仮のブログ

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院試体験記 (東北大学理学部数学専攻)

はじめに

R6年度東北大学理学部数学専攻の入学試験を受けました.

出願時の状況は以下の通りです.

  • 東北大学理学部数学科からの進学
  • 併願はせず
  • 博進は未定

院試対策

4年に上がる春休みの段階で過去問を集めました. web上で公開されている東北の直近数年分に加え, そこからさかのぼること20年分くらいは先輩づてで手に入れました. このほか, 大阪, 名古屋, 東工, 神戸, 京都はweb上に多めに掲載されていたのでこれらも追加.

その後友人ら数人と不定期的に院試対策会を行い始めます.
はじめのうちは, 他大学院の問題を中心に, 各自問題を解いてきて答えの確認を, 院試が近くなってきたら東北大の最近の過去問を本番通りのスケジュールで解くということをしていました.

それ以外にもdiscordがかなり活発に動いていて, 解けなかったところのヒントを出し合ったり, 賢そうな解答の共有をしたりしていました.

なんやかんやで用意していた東北大の過去問で当日自分が解く予定の問題は全て解きました.

出願

受験料を払ったのち, 各種書類をインターネット出願システムで登録します.
また, 数学系独自の調査書もあり, 四年セミナーの内容や, 卒業後の希望, 講義外でのセミナー活動, 好きな定理について等を記入しました.
いざ書こうとすると書く内容に迷い, 記入には結構時間がかかりました.

前日

起床の練習として試験日程に合わせて大学へ向かいました. 流石に前日ともなると新たな知識を入れる感じでもないので友人と駄弁って英気を養っていました.
午後には流石に何かやるかとなってちゃんとした解答の作れていなかったR4-専門-1(4)を数人で考えました.
中々進展がありませんでしたが, 要素を1つ以外潰すような準同型を作り, それのカーネル(これは一般に正規部分群になる)をとり, というのを数回適切な順番で行えば, 可解群たらしめる部分群の列が作れます. 適当な部分群を考えてしまうと正規部分群であることの確認や商群が可換であることの確認が超面倒ですが, この解法ではそのどちらもが簡単に確認できてとても気持ちが良いです.
これが解けるまでは可解群の問題当日出ないでくれ~と言っていましたが, これを解いた直後から可解群の問題出てくれ~というようになりました.

当日(day1)

6:30に起床して競プロを1問解きました.
その後朝食をとり, 8:30位に大学に着きました. まだ開場していなかったので, C棟で友人と駄弁りながら開場を待ちました.
ほどなくして開場したので受験票の確認をした後, 入室しました.

午前・共通

1問目

線形代数の問題です. 変数の入った3次正方行列をあれこれする問題です.
ジョルダン標準形を求めることが主題な問題は東北大の過去問に一度も出ていなかったのでややビックリしました.
(1)行列に元からある変数やら固有値を求めるための変数やらが入り混じって大変なことになりそうだったので, 一つ自明に出てくる固有値を探した後, 固有値の積が行列式であることと固有値の和がトレースであることを使って楽をしようとしましたが, 結局計算ミスをしてかなりの時間と計算用紙を費やしました. 計算用紙は2枚裏表が使えるのですが, 1枚半には行列計算の痕跡が残ることになりました. 後から聞いた話では対称性のようなもののおかげで, 愚直に計算してもそこまでは大変にならないらしいです.
(2)固有値を(1)で既に求めていたのでほぼ何もすることがありませんでした.
(1)を展開した形で求めて(2)では微分を利用することが想定なのかと思いましたが, その方針を取った人曰く大変なことになったらしいのでどのような想定でこの問題があったのかはあまりよく分かりませんでした.
(3)3次なので固有空間の次元を求めればジョルダン標準形が決定できます. 確認の意を込めて, 結論を書いた後で実際にジョルダン化できる相似変換を求めました.

2問目

位相の問題です.
(1)端点が有理数であれば \mathbb{R} の開区間も閉区間も相対位相では同じものになることから議論を進められます.
(2)もし2点あったらその間の有理数で2つの開区間に分けられてしまい連結性に反します.
(3)(2)より定値でなければ像が非連結と分かります.
(4) 0\notin X であるので,  (-\infty,\frac{1}{n})\cup (\frac{1}{n},\infty) (の相対位相をとったもの) がコンパクトでない論拠となります.

3問目

実解析の問題です. 関数列が与えられるので一様収束性を議論します.
(1)各点毎に極限を考えるだけですが, なぜか  1-x^{2} x=0 を代入した値を  0と勘違いしました. 結論は変わらないですが.
(2)必ず  x (1-x^{2})^n のどちらかが十分小さくなるような  n を探せばよいです.
(3)(1)と同じミスをしました. 今回は結論にも影響が出てしまいます.
(4)  n を止めた後に  x を上手く取れば  g(x) f_n'(x) が十分離れるようにできます. ここで取るべき  x 0 以外にもあったので, (3)で間違えていても間違えていなくても(ほぼ)同じ議論が回せるのは不幸中の幸いでした. なお, (3)を正しく計算すると不連続になるため, 連続関数の収束に関する一般論からそもそもこの議論が要らないものとなります.

4問目

実解析の問題です. (1) 符号が交互に現れることと, 各項の絶対値の値は単調減少することから, 2項ずつペアにすると正となります.
(2) 初項と末項を2つずつペアにすれば,  S_{*} a_{1} で上から抑えられるので(1)と合わせて収束性が言えます.
(3) 積分区間を分割したものを数列とすれば, (1),(2)の議論が使えます. (2)の評価だと, 一か所不等式が真となる事までは言えないので, もう2項先まで見る必要がありました.

3完半といった感じだと思います. 3問目のミスがとてもつまらないものだったので悔しいですが, 試験直後は全完のつもりでいたので, 精神的には大分余裕が生まれました.
周りの反応は2.5~3.5完位が多く, 大問1で苦労したのを後半にも引きずってしまったという人もちらほらいました.

昼食

学食が普通に空いていたので冷やしラーメンを食べました. 冷やしラーメンというより冷麺ぽかったが夏らしくて美味しかったです.

午後・専門

専門は例年8題(代数2問, 幾何2問, 解析3問, 基礎論1問)の中から3題を選んで解答する形式です.
代数は2問しかないため, 代数分野を志望する場合他分野からもう一問解く必要があります. 過去問では, 大体の回で基礎論を, それが解けなさそうな時は複素解析を解いていました.

1つ目・大問1(群論)

正規部分群に対する問題で, 全体の主題としては部分群の列でどこに正規部分群の関係があれば別のどこかでも正規部分群の関係にあることが言えないかといった感じです.
(1)~(3)に関しては特別な発想も必要なく状況を整理して基本をできていれば解けると思います.
(4)では,  S_4\triangleright N, N\triangleright K, S_4\ntriangleright K となる例を一つ探せばよいです. ( S_4 は4次対称群)
まず  N交代群かクラインの四元群である必要があります. 感覚的には指数が大きいほど正規部分群になりにくいので, より位数の小さいクラインの四元群の方を  N として選びます. すると  N\triangleright K なる非自明な  K も同型を除いて一意に定まります.
後は  S_4\triangleright N, N\triangleright K, S_4\ntriangleright K を実際に示せば良く, これはそれぞれ, 型をみる, 全て計算する, 適当に具体例を一個計算する, という事をすれば示せます.

2つ目・大問2(体論)

ガロア拡大に関する問題で, 過去に類を見ないほど素直な問題でした.
(1)はアイゼンシュタインの既約判定法( p=2) をしても良いし, 3次式なので  \mathbb{Q} 上に根を持たないことを言うだけでも良さそうです.
(2)は両側の包含を, 生成元が含まれるかの確認によって示せばよいです.
(3)は拡大を2段階に分ければ簡単な議論で拡大次数が求まります. ガロア群が3次対称群と同型なことは, 後の問題の関係で (12),(123)\in S_{3}に対応するようなガロア群の元を持ってくることで示しました.
(4)ガロア群が特定できているのでガロアの基本対応で良いです. 答え自体は簡単に予想がつく/知っているので, それらを列挙して, ガロア群の部分群の個数からそれらで尽くされることを言っても論理上は問題なさそうです.

3つ目・大問6(関数解析)

基礎論も複素解析もちゃんと詰め切れる自信が無さそうな問題をしていたので, どちらにするか悩みながら他の問題もパラパラみていたら関数解析が解けそうだったので急遽これに手を付けることにしました.
バナッハ空間の問題で, 関数空間上で積分を用いて定まる作用素を考える問題です.
(1)H22の共通で似た問題をみました. 帰納法をして, 直前の結果を用いて評価を少しずつ厳しくしていけばよいです. (2)無限和を直接扱うのではなく, 有限個で止めた状態でコーシー性を示すことによって完備性からその極限として無限和の正当性が担保できます.
(3)こちらも有限で止めたもので議論し, ノルムの連続性から極限をとったものへの議論へと移行できます. 一意性も該当する元を2個とればその差のノルムが0であることを示せます.

3完できたと思っていていて, 議論不足や気づかぬうっかりで多少点が引かれていたとしても十分な出来だと思います.
代数2問がかなりあっさりした問題で, ここ数年の中では圧倒的に解きやすかったです. 話を聞いた中にも2問とも完答or1-4以外解けたと言っていた人がそれなりの人数いました.
関数解析は本番解く予定はありませんでしたが友人たちが解いているのを聞いたり一応講義を振りかったりしておいたのが功を奏しました.

午後・英語

(1) 長文読解です. 和訳や要約をします. 数学を題材にした文章ですが, どちらかと言えば受験英語のような感じです.
(2) 英訳です. 定理とその証明が与えられるのでそれをまるまる英訳します. 普段何となくで英語を読んでいるのでなんとなくな文章を書きました. 多分伝わるけども......みたいな文章が完成したと思います.

その後

翌日の面接で解けなかった問題について聞かれるという噂があったため, 何人かで集まって解答のすり合わせをしました.
その後はサイゼリヤで夕食と間違い探しをしました.

当日(day2)

面接

集合の15分ほど前に控室に行きました. 到着はほぼ一番乗りでしたが, 続々と受験生が集まり, その後滞りなく面接が開始されました.
服装に関しては, 解析は全員スーツを着ていて, 代数はスーツ/私服が半々くらいでした. 私は普段着よりはちゃんとしているつもりの私服で行きました. 面接は分野ごとに部屋が分かれているのですが, 開始5,6分で幾何と代数の部屋から最初の一人が戻ってきてあまりの早さに控室が少しざわつきました.
ほどなくして私の番がやってきました.
内容としては, 博進についてと4年セミナーと院での希望が若干違うことについて質問されたのでそれぞれ正直に答えました.
また, 4年セミナーでどんなことをしているかの質問に, 楕円曲線に関する本を読んでいますとだけ答えたところ, その話題はそれで終わってしまったのでもしかしたらその質問の段階でもう少し詳細を答えるべきだったのかもしれません. 後は調査書で競プロについて触れていたのでそれに関して雑談のような質問があり, 面接が終了しました.
入退室や名乗りを除けば5分もかからなかったと思います.
調査書に書いた好きな定理や4年セミナーでやった定理のステートメントや証明の概略などを聞かれると前情報を仕入れていたので, それらが全く無かったことに驚きました.
ただ, 分野によってはこのあたりをしっかり聞かれ, 雰囲気もかなり違ったらしいので, 先人から面接の様子を聞きたい場合は希望する分野の人から聞くと良さそうです.

その後

合格発表まで数時間あったので一旦帰宅して爆睡していました.

合格発表

合格発表の掲示は例年予定時間から少し遅れるらしいと聞いていたので, 17時から20分ほど遅らせて大学に向かいました.
数学棟の外に人だかりが出来ていたが, 掲示物らしきものは見当たらなかったので発表がまだなのだと思い, 近くにいた友人たちの会話に首を突っ込みました. しかし, どうやら建物の内部に合格者掲示があったようで, 合格発表にわき目も振らず会話に入ってくる強者のような図になってしまったらしいです(友人談).
建物の中で番号を確認したところ, ちゃんと自分の番号もあり一安心. これにて私の院試終了です.

さいごに

院試は過去問こそあるものの解答はほとんど出回っていません. 解答のすり合わせという点でもモチベーションの維持という点でも友人との協力体制が大事だと感じました.